第19章 特異体質と未来への期待
杏(いや。男から寝ている女性の部屋に行くのは流石に良くないだろう。)
そう思いつつも、杏寿郎は立ち上がり "起きているかもしれない" という淡い期待を抱いて自室を出た。
客間の前に立つと望んだ人の気配を感じる。
寝返りを打つような布の擦れる音のあと、桜の声が聞こえた。
『…杏寿郎さん……。』
その愛しげに呼ぶ声に杏寿郎は驚き、目を大きくする。
杏(俺の夢をみているのか。)
そう思うと近寄る事が許されるような気になり、杏寿郎は自然と襖に手をかけた。
スッと開くと白檀の香りがする。
杏寿郎は小さな照明を点けてから畳に座り、桜を見つめた。
杏(相変わらず愛らしい寝顔だな…。)
頬を撫でられ嬉しそうに緩む頬を見て小さく呟く。
杏「体を離していてもこれ程愛おしく感じるのだ。桜、この気持ちは間違いなどでは無いぞ。」
そう言うと優しく桜の頭を撫でた。
そうして暫くただただ目を細めて眺めていると 桜は次第に眉を寄せ始め、表情も苦しそうなものへと変化していった。