第96章 夢が叶う時
杏「君が教えてくれ。俺のどういった所が "たちが悪い" と思わせたのだ。俺は愛らしいと褒めただけだろう。」
「…………………………。」
(褒められて嬉しかったなんて言えるはずない…。)
杏寿郎は答えられずに赤い顔で俯いた桜の頭を撫でながらも面白がるように顔を覗き込む。
杏「では当ててやろう。褒められて流されたな。」
「えっ」
ビクッと体を揺らす桜を見て杏寿郎は満足そうに笑った。
それを見て桜は途方に暮れる。
(これからも翻弄されないといけないの…?)
その問いの答えはYESだ。
理由は単純に杏寿郎がそうしたいからだった。
杏「よもや、当ててしまったか。本当に分からなかったのだがな。」
そういけしゃあしゃあと言いながら杏寿郎は手の甲で桜の頬を優しく優しく撫でる。
杏「そうか、桜は褒められればあれ程容易く流されてしまうのだな。」
「あの…、」
杏「これからの生活も楽しみだなあ、桜。」
(……敵う気が…まったくしない…………。)
杏寿郎の楽しそうな声に桜は白旗を上げる。
そして杏寿郎の望み通り、これからも杏寿郎に翻弄され続ける人生を送ることが決定したのだった。
その頃――、
彩『両親へのスピーチを始めたいので誰か2人を連れてきて下さい。』
そんな彩火の冷たい声が会場に響き、客達はくすくすと笑い声を漏らしたのであった。
おしまい。