第85章 不穏
―――バタ…ン
玄関の閉まる音はいつもよりどこか重い。
それは受取側の気持ちの問題なのだろう。
(ショックによって忘れていた事は思い出しながら口にしたって感じだったけど大体話せたと思う…。でも…何より必要なことは…、)
杏(これ以上聞き出そうとすれば桜はどうなる。だが、桜の為にも明らかにしなければならない何よりも大事な事がまだ残っている。)
2人は口を閉ざして考えを巡らせながら玄関に上がると手を洗う。
唯一の生きた目撃者である桜は弟を殺されたショックでユキの影響外でも記憶があやふやな部分があった。
しかし今は記憶を取り戻しつつある。
そして思い出したのであれば真っ先に確認するべきであるのは犯人の特徴である。
だが桜はまだそれを思い出すに至っていなかった。
杏寿郎は洗面所を出ると桜の手を優しく引いてソファへ向かった。
そして桜を座らせると熱いココアを持ってくる。
きちんと溶け切れていないダマが残ってしまっているそれは杏寿郎の温かさに似ていて桜の気持ちを落ち着かせた。
「まず…、」
杏寿郎からは切り出しづらいだろうと思った桜は先に口を開いた。