第13章 お館様
「ゆ、癒猫…さま……。」
ざわざわと胸の中が動いた。
でもそれは悔しさや悲しさの他にも 懐かしさや嬉しさが混じっていた。
「癒猫様……。」
桜がまた噛みしめるように言うと二人は静かにその様子を見つめた。
「…はい。その呼び名がいいと思います。」
桜はスッと顔を上げて答えた。
親「ありがとう。」
親方様は変わらず微笑んだ。
親「神相手ならば恨みを買うことはあっても危害を加えられる可能性が減るだろう。」
親「桜は神を名乗ることに抵抗があるだろうけど、それが最善だと私は思う。私からの提案はこれで以上かな。」
そう言うと親方様はにこりと笑った。
親「…それから聞きたいのだけど、ここに来るまでどうしたのかな。桜の姿はとても目立っただろう。」
それまでじっと静かに聞いていたので杏寿郎がすぐに答える。
杏「担いで走りました!!周りの者が分からぬ速度で走れば問題ありません!!」
それを聞いて親方様は少し面白そうに微笑んだ。
親「そうなんだね。杏寿郎が側にいて、物珍しさに攫おうとする輩から守れる間なら 姿を見せても良いと私は思うよ。任務以外で外へ出られないのは桜も窮屈だろうからね。」
親「さて…、」
そして桜に顔を向け、今までの提案についての反応を伺うように少し首を傾げた。
「…私は全てにおいて異論ありせん!…ただ、まだ伝え忘れたことがありました。杏寿郎さんにもまだ言っていなかった事なので、聞いててください。」
それを聞くと杏寿郎は黙ったまま頷いた。
「ユキは自分に強い干渉力をもっています。私が泣けばその記憶を奪ってしまうこともありました。前線へ出れば辛いことは避けられないでしょう。もちろん泣かないよう覚悟はします!」
「ですが、もし、行動に違和感があった場合、この事が関係しているかもしれない事を覚えていて下さい!」
そう言うと桜は勢い良く頭を下げた。