第57章 ※聞き分けとお返し
「んぅ……杏寿郎くん、体重かけすぎ。少し苦しいよ…。」
杏「知っている。」
「……拗ねてるの?」
その言葉に眉を寄せた杏寿郎は顔を上げ、桜を真っ直ぐに炎色の瞳で見つめた。
杏「子供扱いしないでくれ。この歳になって拗ねたりなどしない。ただ、君はあれ程お返しをしたいと言っていたではないか。なので少し期待をしてしまっていただけだ。」
(やっぱり拗ねてるんじゃないのかな…。可愛い……。)
「……………………少しならいいよ。」
杏寿郎の眉を寄せる顔にはいつものような迫力が無く、少年の様にさえ見える。
桜はそういった表情への弱さからついそう答えてしまった。
途端に杏寿郎は元気になった。
杏「本当か!!」
再び千切れんばかりにぶんぶんと振る尻尾が見えた気がした桜は杏寿郎の頭を撫でると眉尻を下げて頷いた。
(拗ねた男の子の次は大型犬…。かわいい……。的確に私のツボを刺激してしまっている…。)
杏寿郎はそんな事を思いながら頭を撫でる桜を見て何を考えているのかを察すると少し面白くなさそうな顔をする。
しかし何も言わずに体を起こすと桜の行動を逃さず観察しようと大きな目を向けた。
桜はその真っ直ぐ過ぎる視線を受けると少し躊躇ったが すぐに下半身の浴衣を少しだけはだけさせて手を伸ばそうとした。
その手を杏寿郎は掴む。