第56章 戦いを終えて
杏(前は遠慮が先立っている事が多く 何も気にしていない顔でこの様な言葉を返す事などなかった。前に此処へ来た時よりも確実に俺達の距離は縮まっているのだな。)
杏「では君の時代では愛する者に何を贈るのだ。」
「え…、」
桜は杏寿郎に視線を戻すと再び考える様に首を傾げる。
「うーん…、男の人からならやっぱり装飾品でしょうか。でもリボンも指輪もあるし…。」
杏「むぅ。宇髄ならこういった時………宇髄…、」
杏寿郎はそう言いかけて突如ピタッと動きを止めると桜を見つめたまま固まり、そしてパッと顔を輝かせた。
杏「父上や俺、千寿郎の為にもなってしまうが贈りたい物を思い出した!!良いだろうか!!!」
「えっ!!あ、う…、さ、三人の為になるのなら喜んで……。」
杏寿郎の眩い圧におされ、桜は贈り物が何であるかを聞く前に頷いてしまったのだった。
―――
「わ、わあ……、わああっ」
杏寿郎が桜を抱えて全速力で向かった先は箏を取り扱っている老舗の立派な店であり、ずらりと並ぶそれらは明らかに高級で素見客は入れていないようだった。