第54章 嵐前の日常
「……へえ。そんな話があるの。死ぬような怪我ってどの程度の?人の医療が進んだだけかもしれないわよ。」
―――パキパキッ
気を逸らそうと話しても再び鳴る音に桜の顔が歪む。
鬼「手足と腹を食い千切られても元通りになったと聞いた。可怪しいだろ。それとも今は本当にそんな傷も治せるのか?」
「義手や義足の技術は日々進歩しているわ。鬼殺隊には財もある。勿論腕の良い技師にだって作ってもらえる。お腹は運が良かったのよ。そもそも同じ鬼狩りに見えただけという可能性もあるわ。」
鬼「………………………………。」
鬼が唐突に黙る。
―――パキパキッ…
「……何を、」
鬼「お前、何でずっと顔を隠してるんだ?刀も持たずに一人で何してた?」
その瞬間、桜の血の気が引いた。
(興味を持たれた。もしかしたら今だって鬼を通じて鬼舞辻が見ているかも知れないのに。刀を持たず一人で彷徨いていた鬼殺隊士。今の私は酷く不自然な存在だ。)
鬼「おい、お前、もしかして何か関わって…、」
そう言いながら鬼が近付いてくると桜は初めて強気な姿勢を崩し、後退った。
すると鬼は目を見開き嬉しそうな表情を浮かべた。