第53章 ※不自由な夜
杏「桜…、」
杏寿郎がくぐもった声を出しながら 柔らかな感触の心地良さと息苦しさを感じていると、それに気が付かない桜はひたすら優しく杏寿郎の頭を撫で始めた。
杏「桜、息がし辛い。……桜。」
杏(聞こえていないな。)
そのまま緩く優しく腰を揺らす桜に慈しむように頭を撫でられていると 杏寿郎は息苦しさの他に温かくも切ない気持ちが心の内に芽生えたのを感じた。
それは以前にも桜の前で一度味わった物であり、更に昔 母親の前で抱いた物でもあった。
杏(…桜は父上が俺をもう認めてくださっていたと言っていたな。それでも俺は母上に説かれた責務を全うしなければならない。父上の望むまま鬼殺隊を、柱を辞めることは叶わない。桜の事もなるべく側で守りたい。)
そう思いながら抱き締め返したくなる腕を抑え、杏寿郎は目を固く瞑る。