第53章 ※不自由な夜
(何だろう、この気持ち……、)
杏「何故その様な事を言う。俺は断じて君に触れたくない訳ではないのだぞ。他の男を求めるなど冗談でも口にするな。」
「……でも…二ヶ月ですよ。自慰は上手になったけどそれだけじゃ…、」
(怒る姿をもっと見たい…。)
杏「桜。」
杏寿郎は珍しく苛立ちを孕んだ低い声を出した。
その声を聞くと桜は新たに芽生えた感情に蓋をして口を閉ざした。
その様子を杏寿郎は冷たく燃える目で見下ろしていた。
杏「言って良い事と悪い事がある。それくらい幼子でも解るだろう。他の男の慰めを受け入れられる等と口にするようなら俺もそれなりの対応をするが、良いか。」
初めて自身に向いたその冷たい怒りに桜はただ小さく何度も首を横に振った。
(わたし調子に乗ってしまったんだ…『やきもきさせたい』って思っちゃった…。なんて意地の悪いことを……。)
「ほ、本当にごめんなさい。冗談でも二度と言わないです。」
桜がそう震える小さな声を出すと杏寿郎は漸く桜の肩から手を離して溜息をついた。