第53章 ※不自由な夜
杏寿郎はその姿に少し首を傾げながら布団に入ると腕を広げて桜を招いた。
桜はそれにすぐ応じて杏寿郎の胸に顔を埋める。
「……杏寿郎くん、大丈夫?…大っきいままだよ。私お口でします。」
杏「気にしなくて良い。収まるまでしていたら腹も顎も痛くなって朝餉が食べられなくなるぞ。」
「治せるもの。」
杏「……君はまだそういう事を言うのか。疲れを取る事に抵抗を感じていた割に妙な所では簡単に使おうとするのだな。」
その言葉に桜は少し眉を寄せて杏寿郎を見上げた。
「妙ではないよ。杏寿郎くんが辛そうだからしたい、杏寿郎くんが気に病むなら治せばいい。そう思っただけ。」
それを聞くと杏寿郎は困った様に笑う。
杏「有り難いが随分と私的な理由だ。その力を管理する者がいつ制限するか分からない。あまり頼らない方が良い。」
「それは……、」
(分かってる、けど…、分かっててもしたかったのに……。)
杏寿郎は視線を落とす桜の表情を見ると今度は息をついた。