第53章 ※不自由な夜
二人は風呂を上がった後 仲良く互いの髪を拭き合い、就寝の挨拶を済ませてから離れへ向かった。
杏「楽しみだ!」
「………………うん……。」
(私から触れるってことは、わたしが上になってすれば良いんだよね…。下手すぎて杏寿郎くんを焦れさせちゃわないかな。はやく上手くならないと………集中、…集中。)
桜から甘くはない鍛錬の時の様な気配を感じ取った杏寿郎は口角を上げながら大きな目で桜をじっと見つめる。
杏「桜。」
「はい!!」
杏「先程、千寿郎にも父上にも俺が君に触れた事を伝えなかったな。何か理由があっての事か。」
「あ……忘れてました。それにあれは…ちょっと例外といいますか……、多分お二人とも許してくれますよ。」
―――タンッ
杏「そうか。」
読みにくい笑顔を浮かべながら襖を閉める杏寿郎を見つめ 桜は首を傾げた。
(私が見ないふりをするのならあわよくば触れようとしてる…?ううん、杏寿郎さんは罰がある以上 自身の欲からは意地でも触れない。でもそれなら何でそんな事聞いたんだろう……?…うーん………、)
桜の纏う空気が少し抜けた柔らかいものに戻ったのを確認すると杏寿郎は頬を緩めながら布団を取りに押し入れへ向かった。
そして敷布団を敷くと 冬用の嵩張る掛け布団を持ってよたよたと歩く桜の元へ大股で歩み寄る。