第51章 家族
千「だから男の人を……?目の前で弟さんが惨殺されたからだと思っていましたが、それだけではなかったのですか……。」
桜の過去について弟が殺された事以外を知らなかった千寿郎がそう言うと 弟の事件については聞いていなかった槇寿郎が反応をする。
槇「弟を惨殺?」
千「はい、実は…、」
それから千寿郎が監禁と弟の事件について話すと槇寿郎は顔を顰めた。
そしていつの間にか再び自ら頭を下げて固まっている桜に文句を言おうと視線を戻した。
槇「その様な目にも遭っておきながら『悪い人はいない』という価値観を持っていたのか。」
杏「それはどういう事ですか!!」
「わ、悪い人はいます。さすがにそこまででは…。」
槇寿郎は頭を下げたまま食いついた杏寿郎に一度眉を寄せたが、焦った様子の桜を見つめながら "大丈夫な人" と "大丈夫かもしれない人" の価値観について話した。
槇「『危険かもしれない奴がいないぞ』と指摘したら『危険かもしれないけど大丈夫だと信じたい人が "大丈夫かもしれない人" だ』と言っていたな。」
それを聞いて杏寿郎は 桜が危害を加えた他者に対してさえ甘すぎる理由がその価値観によるものなのだと分かった。