第9章 鍛錬
「呼吸…全集中の呼吸、ですか?」
杏「ああ!」
桜の前に立つ青年は、いつも真っ直ぐだ。
その証拠に、残念ながら百周も嘘ではなかった。
桜はこくりと喉を鳴らして杏寿郎の瞳を見つめる。
(呼吸…あの鬼殺隊の人たちが使う……。杏寿郎さんの信じられない体力も呼吸のおかげなら出来るに超したことはないよね…。)
正直、出来るようになるビジョンは桜に見えなかった。
だが自身がやるとさえ言えば杏寿郎は本気で教えてくれるとも感じていた。
(出来ないかもって思ってたら、取れたはずのチャンスも掴みそこねちゃう…!!)
杏寿郎は、自身に力強い目を向け続ける桜が 新しい鍛錬をするにあたり心を決めようと自分を鼓舞しているのを感じた。
杏(使命感だけで鬼殺隊に加わること、使命感だけで呼吸を会得すること、それは純粋に自身の心だけが原動力になる。)
そう思いながら自身の燃えるように熱い心臓に意識を向ける。
杏(桜も、俺も、肉親を食われたような強烈な復讐心を持ち合わせていない。使命感のみで鬼殺隊に加わるのなら、人に強要されて力を付けようとしていては駄目だ。)
桜の目を真っ直ぐ見返しながら、杏寿郎は期待を込めるようにぐっと目に力を込めた。
杏(その甘い考えは命が関わるようなぎりぎりな場面で迷いを生む。判断が遅れる。決めたはずの覚悟も揺れる。)