第47章 ※前途多難
摂(奥さんの声に気が向くあまり、ご自身の声量を失念していらっしゃるのだろうか…。なんにせよ俺が聞いて良い筈がない。しかし…、)
摂津は以前、合同任務で十二鬼月と遭遇した事があった。
その任務に柱は居らず 一番階級が高かった者が杏寿郎だった。
杏寿郎は街にばら撒かれた鬼の仕掛けを摂津含む他の隊士達に任せると一人で鬼に立ち向かい、致命傷になり得る攻撃を何度食らおうとも立ち上がった。
摂津は仕掛けを処理し終わった後も力不足から杏寿郎の助けに入る事が出来ず、それは他の隊士も同じであった。
しかし、ぼろぼろの姿で孤軍奮闘する杏寿郎の背中には何故か揺るぎない頼もしさが消えず その不屈の精神は摂津の心に熱い炎を灯したのだ。
その時の鬼殺の道に一途な燃える瞳に憧れた。
だが、意外な一面を覗き見てしまったものの摂津は眉尻を下げながらも少し微笑んでいた。
摂(…安心したと思うのは……おこがましいだろうか。煉獄さんにも "帰る場所" があったのだな…。)
そう少し気が緩むと、同じく緩んだ手の隙間を掻い潜って杏寿郎の声が耳に届く。
『愛いぞ、桜。』
摂津は慌てて耳を押さえ直したが、杏寿郎の熱を孕みつつも優しい声音に再び微笑んだ。