第44章 ※ずるい人
杏「桜?どうして誘いを断ってわざわざ自慰などしている。指では奥まで届かないだろう。」
心底不思議そうに尋ねられると桜は首元から顔を離して恐る恐る顔を上げる。
そして一度炎色の目を見つめてから居心地悪そうに視線を外した。
「毎日すると……習慣になっちゃいそうなので…。」
杏「夫婦が毎日愛し合って都合の悪い事があるのか?」
「まだ夫婦じゃ、」
杏「では すぐにでも祝言を挙げよう。」
桜は『夫婦じゃない』が杏寿郎の地雷であることを失念していた自身に眉を寄せる。
一方、途端にピリッとした空気を纏ってしまった杏寿郎は桜の頬に手を当てて首を傾げながら顔を覗き込んだ。
杏「夫婦じゃないという意識が君の中では濃い様だな。言われる度にまだ他の男の元へ行けると言われた気分になる。……蝶屋敷で好みの物静かな男にでも会ったのか。俺を使いながらその男を想ってしていたなんてことは、」
「あ、あるはずないじゃないですか…!」
桜は確かに初恋の相手に似た空気を持つ隊士を治した事があった為 どことなく後ろめたさを感じながら焦って否定した。
しかし桜の顔から感情を読み取る事に長けている杏寿郎はその反応を見て口を薄く開いたまま固まる。