第8章 覚悟と条件
杏「といれ?」
杏寿郎がふと手を止めてこちらを振り向く。
「あ…厠…?です。」
杏「桜は厠で用を足すのか!感心だな!溢さぬようにちゃんと尻を下に向けるんだぞ!俺は手紙を書いているのですっきりしたら戻ってくれ!」
そう言うと杏寿郎は褒めるように頭をぽんぽんと撫でた。
「…………。」
縁側の襖を開けてもらうと部屋を出る去り際に、
「杏寿郎さん…、私一応女なんですからね…。」
と、なるべく恨めしく聞こえるように言ってから千寿郎を探しに行った。
杏「………むぅ…。」
残された杏寿郎は腕を組み、不可解な顔をして首を傾げた。
「いた!千寿郎くん!」
縁側を走っていると、開けた襖から差し込む陽の中で針仕事をしている千寿郎を見つけた。
千「どうしました!?」
桜に驚きながらも千寿郎は急いで駆け寄ってくる。
「その……言いづらいのだけど、厠にいきたいんです…。」
そう俯いて居心地悪そうに言うと、千寿郎はハッとして "すぐご案内します!" と歩き出した。
ふわっと人の姿に戻ってから案内された戸を開ける。
「え!」
てっきり汲み取り式のトイレだと思っていたのに、深い穴がない。
便器の前には水洗のレバーのようなものもある。
「煉獄家…すごい………。」
桜は小さく呟いた。