第2章 捜査開始
「あのさ、症例なんだけどね」
「はい」
「眠る時間が次第に長くなっていった奥さんを持ったご主人の手記を読んだんだよね」
「手記」
ハンジさんから落とされた言葉は、想像とは全く違うものだった。
そしてそのようなものをいったいどこから見つけて来たのだろうかと思う。
必死に今読める文献を片端から見ていったのかもしれない。
この人ならやりかねない。
気のせいでなければいつもより薄汚れ、いつもより隈の濃いハンジさんは、ハンジさんなりに私たちのことに真剣に向き合ってくれているようだ。
そして得た情報がどうしようもなく歯痒いものだということが、否応にも伝わった。
「それによるとね、ご主人・・・奥さんを最後まで愛し続けてみたいで」
だからこそ悲観的な終わりがそこにはあったんだ。
今から言うのは、ただの手記だ。
過去にそうした人間がいた、それだけのことだから。
ハンジさんはそう前置きをし、そして漸く本題へ向かう。
ごくりと唾液を嚥下し、私は落ち着こうと紅茶を啜る。
落ち着く?何に落ち着くというのだろう。
こうも心臓の音が耳の内側から聞こえたことなどなかったはずだった。
私は視線で彼女に話の先を進めるように促す。
できる限り眠るリヴァイさんの傍にいたいと願いながらもそうは許されない現実にイラついた。