第84章 最期の伝言
「⋯⋯っ」
宇那手は文句を言ってやりたかったが、まず止血を優先した。
(やはり、鬼を増やすのは、自分より才のある個体を喰うため。つまり、生かされている上弦は、無惨以上の力を持っていない⋯⋯)
「止まりました。止めました。もう、問題ありません」
宇那手は刀を掴んで立ち上がった。
「動くな」
鬼舞辻は、彼女を横抱きにして、屋敷へ戻った。居間には、血色を失った麗が立っていた。
「どういう事ですか?!」
彼女は、ガタガタ震えながら鬼舞辻に詰め寄った。
「貴方が⋯⋯貴方が傷付けたのですか? 血なら、私が分けます! 何故その子を──」
「栄養価の問題です」
宇那手は片手を挙げて苦笑した。
「血液には型があり、私の血は極めて特殊なのです。稀血と呼ばれる物で、この血を飲めば、数ヶ月、人の血肉を喰らう必要が無くなるのです。ご主人が鬼でありながら、人として生きて行く為に、必要な事なのです」
「お医者様を呼びましょう!」
「必要ありません。私は医者です」
宇那手は、ハッキリと言い鬼舞辻に目を向けた。
「ソファーに寝かせていただけますか? 麗さんには、ご理解いただける様、説明します。私の荷物を持って来てください。治療をしますから」
「⋯⋯ああ」
鬼舞辻は、何かの罠かと思った。
(荷物を漁られても問題が無いという事か? 本当に⋯⋯何も隠していないというのか?)
彼が部屋を出て行ったので、宇那手は、稀血が何であるか説明した。その上で⋯⋯
「恐らくご主人は、過去に人を喰ったことがあります。鬼は、理性を取り戻すのに、途方も無い時間と、人間の血肉を必要とします。私の知っている、善良な鬼も、過去に人を喰っています」
「あ⋯⋯あ⋯⋯そんな⋯⋯。私、どうしたら⋯⋯」
「心配要りません。私が生きている内は、あの人が人間を喰う必要はありません。麗さん。貴女に出来ることは、何時も通りの生活を送ることです。静かに、泰然と。娘さんが一人立ちされるまで。母親なら、出来ますね?」