第2章 柱合会議
柱合会議に呼ばれた少女は、異様な気を放っていた。悪意は感じられなかったし、鬼の気配とも違う。けれど、殺伐としている。
「継子の宇那手火憐です」
冨岡の紹介に、一同愕然とした。人付き合いの悪い彼が、継子を取るとは誰も予想していなかったのだ。
そして、彼女の生い立ちは、数々の死線を切り抜けて来た柱たちをも唖然とさせ、鬼を殊更憎む胡蝶も、同情せざるを得なかった。
宇那手は、猟師の家庭に生まれた。三年前のある晩、彼女が厠に行っている隙に、山奥の家に鬼舞辻無惨が突如現れ、両親は鬼と化した。
彼女の母親は藤の紋の家系の血を引く者で、鬼に対する知識があった。宇那手は、麓の村に被害が及ぶことを恐れ、両親を自分もろとも家に閉じ込め、鍵を掛けたのだ。
鬼は、共食いをし、そして強くなる。その性質を理解していた宇那手は、父と母を引き離し、腕力の強い父親を部屋に閉じ込めた後、数時間に渡り、実の母親の首を、包丁で斬り続けたのだ。
冨岡が駆けつけた時、家の前では隊士がこと切れていた。宇那手は、母鬼の相手をしながら、富岡に訊ねた。楽に死なせる方法は無いのか、と。
冨岡は、伍ノ型干天の慈雨について伝えた。しかし、その技が使えるのは、あくまで鬼が自ら首を差し出して来た時のみ。
宇那手は、咄嗟の判断で、鍵の掛かっている部屋から父鬼を解放した。父は母を喰い、極度の飢餓状態から解放され、にわかに自我を取り戻した。宇那手の必死の問い掛けにより、父鬼は攻撃を止めた。冨岡は、宇那手の目の前で父鬼を殺した。
彼女は日輪刀すら持たずに、閉鎖空間で、数時間鬼の相手をし、肉親を殺す決断をした。この先生き残れるだろうと、冨岡は判断し、敢えて自身の手で彼女を育てると決めたのだ。
実際、宇那手は、全ての型を見て覚えた。半年で全集中常中を身に付け、最終選別を生き残って戻って来た。
恐らく下弦の鬼程度なら、造作もなく始末出来るだろう。
「柱の皆様にお伺いしたいことが御座います」
宇那手は、礼儀正しく頭を下げた。産屋敷は静かに頷いた。
「言ってごらん」
「師範が皆に嫌われているというのは、事実でしょうか?」