第47章 上弦集結
火憐は、人通りの多い街中を徘徊していた。夜まで時間があり過ぎるので、どう時間を潰そうかと悩んでいたが、街には目を惹く物が溢れていた。
万屋に足を運ぶと、店主の男性が目を見開いた。
「お嬢さん、一人かい? 生憎此処には女物が無くてね」
「いえ。男性に贈る物を探しています。何か日常的に身に付けられる物だと良いのですが⋯⋯」
火憐は、男に何かを贈ったことが無かったので、全く分からなかった。冨岡は、服を必要としていないし、形見の羽織も変えるつもりはないだろう。
「財布かねぇ。最近は海外の物も結構入って来てるし。だけど値段もそこそこだ」
「お幾らでしょう?」
「六円するよ」
「では、買います。種類があれば、見せていただけますか?」
火憐の言葉に、店主は目を見開いた。
「あんた、本当にお嬢様だったのかい? 華族かなんか?」
「いえ。貿易商の娘です」
息を吐くように嘘を口にし、火憐は並べられた品物を見た。
「確かに良い品ですね。牛革と、綴錦でしょうか?」
「あんた、本当に物を見る目があるんだなぁ」
店主は気を良くして何度も頷いた。
「さては、お相手も相当の金持ちだな。だったら、紙幣の入る洋風の物が良いだろう」
「そうですね。では、一番落ち着いた色の、こちらを」
火憐は、黒い物を選び、懐から自分の財布を取り出した。
「六円丁度でよろしいですか?」
「ああ。特別に包装もしてやろう」
「ありがとうございます!」
火憐は笑顔で料金を支払い、品物を手に入れた。嬉しそうにしている彼女を見て、店主も顔を綻ばせた。
「良いなぁ。あんたみたいな、お嬢様に慕われる男は。幸せもんだよ」
「ありがとうございます。⋯⋯そういえば、この辺りで生薬を仕入れられるお店をご存知ありませんか?」
「それなら、一本裏通りにあるよ。あんた、薬の買い付けも出来るのか?」
「出来ない事は、お行儀良く座っている事くらいです」
火憐は、苦笑して店を後にした。