第44章 懲罰
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冨岡と火憐を残して部屋を出た後、不死川は胡蝶が薬を煎じるのを眺めながら口を開いた。
「冨岡のヤツ、口数が増えたな」
「冨岡さんだけじゃありませんよ。伊黒さんも。昨日見ましたよね? 自分から冨岡さんに話し掛けていました」
「宇那手の差し金だろう」
「それにしたって、以前なら断っていたでしょう。⋯⋯貴方が此処へ駆け付けて来た事の方が想定外でした」
「任務が無かったからだ。加えてお館様が鴉の伝令を聞いて、布団から出ようとした。代わりに迎えに行くと約束したからなァ。それにしてもあの野郎!!」
不死川は扉を振り返り、すこぶる不愉快そうな表情を浮かべた。
「宇那手を殺す気かァ?!」
「あれは、そういう類の声ではありませんよ。長引く様なら止めに入りますが。まあ、人の屋敷で何をやってるんだとは思いますね。冨岡さんを取り押さえる時には、是非協力していただきたいです」
胡蝶は穏やかな声で言葉を続けたが、それは彼女が感情を隠している証拠だ。不死川は、これまであまり興味を持っていなかった、胡蝶の事も気になり出した。
「お前も冨岡を気に入っていたのか?」
「⋯⋯もしかして、悲しみを、そう解釈しました? 違います。私は冨岡さんの優しい面を知っていましたが、愛情はありませんでした。私の中に、親愛以上の愛が無いことが、虚しくなったのです。鬼殺隊員であり、柱である以上、愛とは無縁の人生を覚悟していましたが、火憐さんや、甘露寺さんを見ていると、寧ろ私の方が異端の化け物の様に思えて」
「いや、アイツらが」
おかしい、とは言えなかった。不死川から見て、火憐も甘露寺も、キチンと自分の任務をこなしている。やるべき事はやった上で、恋をしているのだ。
「不死川さん、もしかして火憐さんの事が好きなんですか? 女性として」
「好きだと伝えた。言葉を止められなかった。本当はアイツの目の前で奪ってやりたかった」