第7章 要求
すぐ外で、腕組みをした冨岡が待ち構えていた。
「もう行けるか?」
「はい。師範は、炭次郎様に会って行かれないのでしょうか?」
「あいつはまだ動けない。それに半端者だ。見込みはあるが」
冨岡はゆっくり歩き出した。その後を、宇那手は付いて行く。
「あの⋯⋯師範。欲しい物があるのですが!」
「なんだ」
「猟銃です」
「は?」
冨岡は、無表情に振り返った。診察室の中での会話を聞いていたので、何か要求される可能性は考えていたが、想定外の物品であった。
「何に使う?」
「鹿を狩るんです。屋敷の裏山には沢山います。考えたのですが、生活の中で最も金銭を必要とするのは、食事です。私が余計に品数を増やしているせいもありますが、少しでも栄養価の高い物を食していただきたいので、其処は譲れません。長期的に考えれば、自分で狩った方が安く済みます」
「⋯⋯いや⋯⋯それは⋯⋯」
冨岡は返答に窮した。給料の値上げを要求したのは、食費が理由では無く、貯えとして遺しておくためだ。
宇那手は、他の娘が見合いに費やしている時間を、全て鬼狩りに使っている。叶うことならば、どんな形であれ冨岡が面倒を見るつもりだったが、女が一人で生きて行くためには、かなりの貯えが必要だ。
「食費については、考えなくて良い。他に何か無いのか?」
「⋯⋯特に何も。師範のお金は、師範のために使ってください。命懸けの、柱の特権です。私が代わりに享受して良い物ではありません」
「⋯⋯だが⋯⋯」
冨岡はまた言葉に詰まった。彼の脳内にはそれ程多くの単語が詰め込まれておらず、度々思いを伝えることに苦慮する。その結果、何も言わない場合が多いのだが、今回はどうしても伝えたかった。
「お前は隊律に背き、俺の指示に従った。俺も、お前が殺される可能性を考慮した上で、足止めを命じた。鬼殺隊からではなく、俺から俸給を受け取る権利がある」