第9章 銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
秋が終わっていく…
ひらひらと落ちていく枯葉を見ながら哀しくなる。
この一枚一枚の葉のように、私の心も擦り減っているように感じる。
あの人には、今度いつ逢えるのだろう…。
綺麗な夕焼けを見つけ、眺めながら貴方と見ることが出来たらと思わずにはいられない。
また逢おうと言って下さったのに。
あれから、貴方にお会いしていません。
ーー…銀杏並木が見事に真っ黄色に染まっていた頃、私は貴方にお会いしましたね。
左右違う瞳の色が神秘的で、貴方は息が止まってしまうほど美しくて…
精霊を見たのかと錯覚したくらいに。
故郷を思い出し、泣いている私の涙を拭ってくれて。
何も話してはくれませんでしたが、ただ側にいてくれました。
それだけで嬉しくて、余計に泣いてしまう私を困り果てた顔で見ていたのが忘れられない。
帰り際、またこの木の下で逢おうと言っていましたよね。
私のこと、忘れてしまったのですか…?
あの人にもう一度、逢いたい。
あれから、毎日のように城下に来てはあの人を探している。
もしかしたら、本当に精霊か何かで幻を見たのかもしれない。
そう思っても、目ではあの人をさがしてしまう。
あの、綺麗な横顔を。
凛としたただずまいを。
少し低い、ちょっと冷たさの感じる声を。
あの人はもういないのかな…。
「葉月様…」
ふと、振り返ると三成くんが優しい笑顔で立っていた。
「もう、夕暮れです。一緒に帰りましょう」
三成くんは諭す様に、私に言ってくれた。
「…三成くん、探しに来てくれたの?」
いつも余裕ある三成くんが息を切らしているなんて、珍しかった。
「ごめんね、忙しいのに」
「とんでもございません」
三成くんは、何でもないように答える。
こんな毎日毎日、いい加減にしろと怒っても良いのに。
三成くんはいつも笑顔で迎えてくれる。
今日はさすがに遅くまでい過ぎたのかな。
いつもお城の前で待っててくれたのに。
「…ごめんなさい。いつも」
「いえ、会えて良かったです。
葉月様が無事なら、私は良いのです」
その包み込んでくれる笑顔に、何度救われたか。
三成くんの優しさが、いつも私を我に帰らしてくれる。
「ありがとう、三成くん。本当に優しいね」
私が微笑みかけると、三成くんはちょっと困った顔をしてから、またすぐいつもの笑顔に戻る。
「優しくは、ないですよ」