第8章 明日の私に〜織田信長〜
「もしかして、困ってますか?」
「いや、なぜお前がこれまで生娘でいたのか不思議に思ってな。
お前ほどの器量良しなら、恋仲の一人や二人いただろう?」
「…そんなそんな」と私は照れた。
「なんだ」
「いえ、信長様に器量良しと言われたことが嬉しくて」
「…変なやつだ」
そう言って信長様は眉を下げて笑う。
久しぶりの笑顔だった。
「ご縁が、なかったんたんです…多分」
そう、ご縁がなかった。
だから急にこんなご縁が来たんだ。
そうとしか思えない。
「その分、今は幸せです」と、笑ってみせた。
信長様が複雑そうにしているように見えてしまう。
やっぱり、負担だったかな。
さっさと無くせば良かったのだろうか。
でも、それは出来なかったから…と項垂れる。
私があれこれ不安に思っていると、信長様の目がふと私の方を見ているのを感じ、顔を上げた。
漆黒の瞳の中に色気を感じてしまい、私はあがってしまう。
この後に起こるであろう事を私に意識させてしまう、そんな目だった。
きっと、信長様ならその目線だけで最も簡単に女性を虜に出来るのであろう。
そのぐらいの威力がある。
見つめられたのは、ほんの何秒かだと思うのに、身体が動かなくなるくらい長く感じた。
すると、信長様はそっと私の手を取った。
「…怖いか?」
えぇ、とても。
とても怖いです。
これから起こることも。
私の全てが見られてしまうことも。
貴方をもっと愛してしまいそうで…
怖いです。
「いえ、大丈夫です」
私の声は震えていなかっただろうか?
ちゃんと返事が出来ていたはず。
信長様は何も言わず、私の手を引く。
「此方に来い」
あぁ、ついに始まってしまう。
どうしよう…。