第66章 続・さようならと言えなくて〜明智光秀〜
逢えなくなって、ただ逢えていた日々の有り難さを感じる。
光秀さんに名前を呼ばれると、自分の名前が愛おしくなった。
あの人の、少し微笑んだ口元を見るのが幸せだった
私を見る、優しい眼差しが…好きだった。
「お元気ですか?…光秀さん」
私は、元気です。
毎日、あなたを思い出します。
あなたの好きな所をたくさん、思い出します。
…好きな所があり過ぎて、思い出すたびに恋しくなり、寂しい気持ちが襲ってくる。
光秀さんにも、少しで良いから…私のことも思い出して欲しいだなんて、自分勝手な想いが浮かんだ。
ほんの一瞬でも思い出して貰えたら…なんて。
そんなことを願う自分に苦笑して、溜息を零した。
その時…
「ー…残念ながら、俺はあまり元気ではない」
聞き覚えのある、懐かしい声がした。
身体が覚えている。
その低い少し掠れた声…
夢かもしれない。
空耳かもしれない。
そう思うのに。
私の目の前には、雨に濡れた光秀さんがいた。
「随分探したぞ」
声が出ない。
だって、此処は現代で。
未来で。
決して、もう出逢えないはずなのに。
まるで当たり前のように、光秀さんが立って此方を見ている。
「……なんで…?どうやって此処に?」
これは、夢?
夢に違いない。
とうとう頭がおかしくなってしまったんだ、私。
…それなのに、なんでこんなにリアルなの?
「葉月…」
その声で私を呼ばないで。
「泣くな、葉月。俺が悪かった」
ポロポロと溢れる涙で、光秀さんが歪んでよく見えない。
もう夢でもいい。
夢でも幻でもいい。
……どうか、消えないで。
「光秀さん…本当に光秀さんなの?」
「葉月…」
光秀さんが私の腕を引っ張り、抱きしめた。
あぁ、あの時と同じだ。
胸の音が早くて、温かい。
「逢いたかった…」
消えるような声でそう言われ、力強く抱きしめられた時、何もかも満たされていく…そんな気がした。