第61章 続・ある春の日に〜織田信長〜
私はなんて言えば良いかわからなくて、目を逸らした。
「信長様…お戯れが過ぎます」
「戯れ?本気でそう言っているのか?」
だって…
まだ恋してるかもわからないのに。
こんなことしたら…
絶対あなたを好きになってしまうもの。
「良い眺めだな…」
そう言いながら、信長様は私の鎖骨に優しく口づけた。
「ひゃっ」
それがくすぐったくて、思わず声が出る。
「やはりな。この間は声を我慢していたのか。…此処が弱いのか?」
「し、知りません」
「では、此処は?」
「…んんっ」
「ん?どうした?」
わかっているくせに、わざと聞いてくる。
意地悪だ。
私は目を潤ませながら、信長様を見つめた。
信長様と目が合うと、ドキドキして身体が思うように動かない。
胸の音は煩いのに、もっともっと触れてほしいと欲望だけはハッキリと私に教えてくる。
…もう、どうしたら良いの?
「案ずるな。俺に任せれば良い」
「信長様…」
「嫌ではないのだろう?」
「………はい」
「では、善くしてやろう…俺の手で」
信長様に触れられ、甘い息が漏れた。
角張った信長様の手が、私の反応を愉しむように下へ下へと這っていく。
私は何も考えられなくなりながらも、昼間の会話を思い出していた。
もう絶対これは、光秀さんのせいだ。
より意識したせいで、こんなことになってしまったんだ。
あぁ、でも…この先のことなんてどうでも良くなってしまう。
信長様の手が触れるたびに、そんな風に思った。
「信長様…」
「今宵は声を我慢するなよ、葉月」
私が顔を赤くして首を横に振ると、信長様の目が細まった。
「ういやつだ…」と角度を変えながら柔く甘い口づけが降ってくる。
「そんな顔をされると、余計に鳴かせたくなるな」
きっと鳴されるのだろう、この人に。
ずっと抵抗してきたつもりなのに…
私はもう、こんなにも溺れていたのね。
気づいたら堕ちている、それが恋。
お母さんごめんなさい…。
私は悪い子です。
もしかしたら、私はまた帰れないかもしれません…。
身体中に口づけられながら、そんなことを思った春の日だった…。