第59章 赤い跡をつけて〜明智光秀〜
光秀さんの想っている人が
私…かもしれない。
そんな可能性があるだなんて。
自室で一人、私は政宗とのやり取りを思い出して赤面していた。
私は最近おかしい。
自覚している。
でも、振り切っても振り切ってもそのことばかり考えてしまうのだ。
一度は諦めようとしていたのに、今になって…なぜ?
まあ、ないよね。
あり得ない。
でも、万が一。
億が一…そうだとしたら?
嬉し過ぎて…
「…し、死んじゃう」
「随分と物騒な独り言だな」
ドッキーン!
心臓が口から出るかと思った。
光秀さん!なぜ、此処に?!
思わぬ人の突然の登場に、私は言葉を失った。
「すまんな、呼びかけたんだが」
「み、み、み…」
「どうした?話せなくなったのか?」
「……ち、ちが、違いますよ。そんなわけ、な、ないですよ」
「ふっ。しどろもどろだな」
そんな私を笑いながら光秀さんは見つめた。
大人っぽく緩く微笑む口元が私の目を奪う。
…かっこいいな。
光秀さんの顔を見ながら、しみじみ思う。
ずっと避けていたから、まともに顔を見れていなかった。
こんなにしっかりと光秀さんを目の中に収められるのは、久しぶりだ。
光秀さんの顔は以前から見惚れてしまうくらい、タイプだった。
拝められるだけで幸せなのだ。
私は、それだけで良かった。
そう…それなのに。
一番になりたいだなんて思って、落ち込んで、浮かれて…。
忙しないったらないな、私は。
欲張りな女だ。
「光秀さんと話すの、久しぶりで緊張しちゃいました」
やっと、素直な言葉が口から出てくる。
そんな私の言葉に光秀さんの瞳が揺れ、私を捕らえた。
「そうだな」
「何か用ですか?」
「いや、用事はない」
「……え?」
「お前に逢いに来た」
私に…?
「肌荒れはもう治ったか?」
「あっ…」
政宗の言葉を思い出し、私は自然と顔が赤くなる。
光秀さんは私の様子を静かに眺め、少し笑った。
「…ほう。噂がお前の耳にも入ったか」
「噂のこと、知っているのですか?」
「当たり前だ。その噂を広めたのはこの俺だからな」