第56章 先生と私(現パロ)〜武田信玄〜
「葉月、大丈夫だったかい?迷わなかった?」
第一声から、もう発言が保護者寄り。
デートではないことは知っていたが、本当にデートではないようだ。
今日は先生として来ている…そう感じた。
私は大きな先生を見上げた。
外で会う先生も、すごく格好良い。
眩しいよ。
その笑顔も、存在も。
この大きな人は今、私の目の前にいる。
私だけのために此処にいる。
…そう思ったら、目眩がしそうだ。
アイドルと内緒で付き合っている人の気持ちはきっと、こんな感じなのだろう。
叫びたくなるのだ。
あなたたちの大好きな彼は、私と今2人っきりだよーっ!って。
自慢したくなる気持ちに似ている。
夢ではないかと思うんだ。
覚めない夢を見ているような、自分の都合の良い夢をみている感覚。
どうか覚めないでって。
「…こっち。さ、行こうか」
指を指した方向は、ファミレスが見えた。
…ファミリーレストラン。
完全に子ども扱い。
わかっていてやっているとしか思えない。
本当に…先生は罪な人だ。
さて、私たちはこれからどうするでしょう?
答えは簡単だ。
ただ、真面目に勉強するんだ。
先生と2人、あのお店で。
✳︎
たかがファミレス。
されどファミレス。
先生と2人で入ることができて、
「何名様ですか?」そう店員さんに聞かれ
「2名です」と先生が答える。
それだけで胸がいっぱいになった。
カップルみたい!
…いや、違うけど。
でも、良い。
2人きりだもん。
ソファ席に通され、メニュー表を渡された。
「何か食べたい?」
「…いえ」
「お腹空いてない?」
「……大丈夫です」
会話が全くカップルっぽくない。
お父さんみたいだ、さっきからずっと。
さあ、勉強しようか。
私は諦めて勉強道具を取り出した。
「おや、やる気だね」
…やる気なんてない。
でも、そういう名目だから。
ちゃんと勉強しないともう外で会って貰えないかもしれないから。
私だって必死ですよ。
苦手な数学から頑張りますよ。
先生が嬉しそうなのは、横目からでもわかります。
純粋に勉学に励んで欲しいんですよね。
わかってます。
だから、そんな顔で見ないで下さい。
…私の邪な気持ちがよけいに浮き彫りになって、悲しくなりますから。