第51章 約束〜明智光秀〜
私は気づいたら口を開いていた。
顕如さんって、どうしてこんなに話しやすいのだろう。
「……夜が来るのが怖いんです。
月を見上げて物思いに耽るのも、考え事をするのも、満天の星空を見るのも何もかも。
ここの夜が静か過ぎて…怖いんです。
思い出したくないのに、思い出してしまうんです…温もりとか笑顔とか」
「…忘れられない人がいるのは、悪いことじゃない。忘れようとすればするほど、苦しくなるだけだ。そんな自分を許してやりなさい」
「…自分を許す?」
「お嬢さんは、ずっと自分を責め続けているように見える。違うか?」
だって、私は自分の想いばかり押しつけて逃げてきた。
ちゃんと信長様に断りもせず。
光秀さんに謝りもせず…。
自分勝手だった。
みんなにお別れも言わず、お礼も言っていない。
「そんなに自分を責めなくて良い。…自分が辛いだけだ」
そう言う顕如さんの方が苦しい顔をしている。
顕如さんも辛い思いを抱えて生きている…
それが一緒にいるとわかる。
目が合うと、顕如さんはまた困ったように笑った。
「俺で良ければ、いつでも話を聞くことなら出来る」
「じゃあ、眠れない夜も…?」
「それは出来ないな」
「……そうですよね。甘えてすみません」
俯く私に顕如さんはふっと笑い、「此方を向いてごらん」と囁いた。
「言われないとわからないか?俺も男だからだよ…お嬢さん」
「……っ!?」
「警戒心が無さすぎるのは問題だな。男はいつ牙を剥くかわからない…というのを忘れてはいけない。例え、俺が法師だとしても、だ。
しかも俺の手は血まみれだ。優しい男ではない」
「顕如さんは…そんなことしません」
「…どうしてそう思う?」
「わ、わかりませんけど。欲で動いたりしない人だと思うから」
「確かに。欲で手を出したりはしないな」
「ほら、やっぱり…っ。ん?じゃあ、なんで…」