第51章 約束〜明智光秀〜
葉月が桜の蕾を見つけ、手を伸ばしながら顕如に声を掛ける。
「顕如さん、日差しがもう春ですね。桜ももうすぐ咲きそうです」
「ああ、暖かいな。良い気持ちだ」
「ふふ、顕如さんって春が好きなんですか?嬉しそうですね」
「…そうだな。好きかもしれないな」
「私もです」
陽だまりのような笑顔を浮かべる葉月を顕如が眩しそうに見つめる。
蘭丸は何度もその光景を目にした。
後ろからそっと近づくと、葉月が気づいた。
「蘭丸くんっ!」
「葉月様、元気?」
「久しぶりだね。今日はゆっくり出来るの?」
「うん…。まあ、ちょっとはね」
まるで昔に戻ったかのような優しい表情を見せる顕如の変化に気づき、それが嬉しいはずなのに蘭丸の心は曇っていた。
「みんなも元気?」
そう控えめに聞く葉月に、曖昧に蘭丸は笑った。
顕如と蘭丸の繋がりを知り、驚いていた葉月だったが何も聞かず受け入れてくれた。
蘭丸も、なぜ葉月が城を逃げるように飛び出したかは知らない。
だが、予想はつく。
葉月には想っている人がいたのだろう。
それは、信長様じゃなかった。
だから…出て行ったのだと。
「そうだね。元気だよ」
表面上だけは…皆変わらない。
ただ、誰も口にしないだけ。
その言葉は飲み込み、蘭丸は言った。
「皆、相変わらずだよ」
ー…皆じゃなくて、違う人のことが知りたいんじゃない?
きっと、葉月様はその方が…
蘭丸はそう思い、少し痩せた葉月を見ながら力なく笑った。
顕如が葉月が留まることを何も言わなくなり、蘭丸も混乱していた。
どうしたら良いのかが、蘭丸自身わからなくなっていたのだ。
蘭丸は二人と少し会話をして、また去って行った。