第1章 壊れる音【土方夢】
「何やってるんだ?」
「えっ、副長?何で?」
「いや……わざわざ客用の茶ァ淹れたのか?」
「は、あ、すみません。あのっ、控え室のは流石に」
そわそわと、落ち着かない様子で答えるに不満が募る。
別に、もてなしてほしかったわけではない。
山崎としていたように、の淹れた茶を飲みながら、穏やかに時を過ごしたかっただけなのだ。
黙り込んだ俺の様子をどう受け止めたのか、は不安げにこちらを見上げてくる。
「あのー、部屋までお運びしましょうか?」
恐る恐る尋ねられ、首を横に振った。
「いや、いい。……ああ、うまいな」
が淹れた茶は、思っている以上にうまい。客用のものを使っているのもあるだろうが、が自分のために淹れたというだけで、それ以上の価値があった。
添えてある菓子を摘まみ上げ、首を傾げると、が遠慮がちに尋ねてくる。
「干菓子はお嫌いでしたか?」
「いや。コレ、何の形だ?」
「ああ、藤の花ですね」
干菓子を見つめるの目は、きらきらとしていた。
きっと、綺麗だとか、美味しそうだとかを考えているに違いない。
その無防備な表情に、全身がぞくりと震えて、気付くと摘まんだ干菓子をの唇に押し付けていた。
「口開けろ」
そう言うと、は素直に指示に従う。薄く開いた唇に干菓子を押し込むと、の舌に指先が当たった。腹の奥に熱がこもるような感覚に、背筋が震える。
平静を装って「うまいか?」と尋ねると、は躊躇いながらも頷く。
「そうか」
そう笑って、自分の指先を舐める。
さっき、の舌に触れた部分が、蕩けるほどに甘く感じた。
「甘ぇな」
思わずそう呟くと、の顔が見る見る赤く染まっていく。
自分の欲望を隠すように茶を飲み干すと、黙ってその場を後にした。
これ以上一緒に居ると、何をするかわからない。正直、限界に近かった。
隠しきれない感情が、じわじわと滲んで全てを侵食していく。
どんな手段を使ったとしても、を自分のものにするのだと、そう、思ってしまった。
ーつづくー