第2章 壊れる音【土方裏夢】
「おやすみ」と言い合って電話を切るなんて、まるで恋人同士のようだと妙な事を考えてしまい、は重い溜息をつく。
「何だかどっと疲れが……」
凝り固まった体を軽くストレッチしてほぐすと、山崎から貰ったアロマキャンドルに火をつけた。
「いい香り。明日、山崎さんにお礼言わなきゃ」
衣文掛けに明日の着物を掛け、帯や帯締めも用意する。
全ての用意を整えた所でキャンドルの火を消して床につくが、直前に土方と話したせいか目を閉じるとあれやこれを思い出してしまい寝付けなくなった。
「……明日も早いのに」
耳の奥に土方の声が蘇り、行為の熱が体を蝕み肌が粟立つ。
は自身をぎゅっと抱きしめると、赤子のように体を丸めてきつく目を閉じた。
「怖い……」
差し伸べられることのない救いの手を望みつつ、ただ明日が来るのを待つ。
そうして気が付くと眠っていて、目覚ましの音で覚醒したはほっと息を吐いた。
「良かった。朝だ」
体を起こして身支度を整えると、山崎に連絡を入れる。
「もしもし、おはようございます」
『あ、ちゃんおはよう。今日はよろしくね』
「はい。あの、随分元気そうと言うか、ご機嫌な感じですけど、何かあったんですか?」
『いや~、何か昨日の夜から副長の機嫌がよくってさぁ。残業無しで結構早くに上がれたんだよね。それに今日の潜入先はかぶき町だから、あわよくばたまさんに会えるかな~って』
浮かれた様子の山崎に、の口元も自然と綻んだ。絡繰りであるたまに、純粋なほどに好意を抱いている山崎を羨ましいと思う。
「会えるといいですね。私も一度、お会いしてみたいです」
『うん。楽しみだね──って、そろそろ用意して出るね。かぶき町の入口で待ってるから』
「はい。では後ほど」
通話を終え、はすっかり重くなった腰を上げた。
「私も準備しなくちゃ」
軽く食事を済ませて出掛けるかと、玄関に向かった所でふと携帯電話を出して通話履歴を確認する。
山崎や吉村に混じって主張するその二文字に、知らず気持ちが沈んでいった。
熱に浮かされたように何度も呼んだその名前。
思い出すのは、行為そのもの。
そして、湧き上がるようなあの感情。
「気持ち切り替えなきゃ」
伏せた目線を上げて扉を開いた。
──閑話へ