第1章 壊れる音【土方夢】
視点。
真撰組監察の一日。
①副長からの命令確認
②実行
③報告
④報告書の作成及び提出
とまあ、こんな感じ。
今日の仕事は①後④。
急ぎの指令が無ければ、先日の報告書を作成して一日が終わる。
「公務員してるなー」
上司の指示のもと、勤務をこなす。
仕事柄定時退勤は希だが、給料はそこそこ良いし、福利厚生もまあまあだ。
難を挙げるとすれば、上司からの圧がとんでもないことだろう。
「おい」
「はいっ!」
「うるせぇよ。普通に返事しろ」
「す、すみません」
それなら普通に声を掛けてくれと思いながら、私は作り笑顔で上司を見上げた。
身長差が20㎝近くあるせいで、近距離だと見上げるのもキツい。
というか、距離が近い。
私のパーソナルスペースにがんがん侵入している。
上司は無意識なのだろうが、圧と煙草のにおいで死にそうなので、そっと二歩下がった。
「んだテメー、こっそり距離開けんじゃねぇよ」
「き、気のせいですよ。それより、何か緊急の任務でしょうか?」
にっこりと、不自然なほどの笑顔で尋ねると、上司は懐から1枚の紙切れを取り出して「手を出せ」と要求してくる。
悩んで右手を出すと、手のひらに紙切れが載せられた。
「明後日の午後六時、この場所に来い。時間外手当は出るから安心しろ」
「はあ……」
「隊服で来るなよ」
「わかりました」
「今日は急ぎの任務はねぇから、一先ず待機だ」
「はい。では、控え室におりますので何か有ればお呼び下さい」
一礼して、足早に控え室に戻ると、私は肺一杯に息を吐き出した。
「あー、疲れる」
直属のあの上司と一対一で会話すると、はちゃめちゃに疲れる。
恐らく、開きっぱなしの瞳孔と煙草のにおいのせいだ。
あれで正義の味方のお巡りさんだなんて、誰が信じるというのか。
「あれ、ちゃんもう出勤してたの」
「おはようございます山崎さん。夜勤明けですか?」
「おはよう。そうなんだよ。夕べ副長が急いで仕事終わらせろってせっついてきてさ~、本当参っちゃうよね」
重い溜息を吐いた山崎さんは、半ば倒れ込むようにその場に座る。
「お茶いれますね」
「ありがとう」