第1章 日輪を繋ぐもの
【杏寿郎side】
そっと夜具から身を起こし身支度を始めると、千聡が身じろぎをした。
「…あぁ、すまない、起こしてしまったか?」
とろんとした顔でこちらを見上げる千聡が「いえ…」と言うので身支度を続けるが、背に注がれる視線がなくなることはなく
支度を終え振り返ると、あの日と同じ…どこか縋るような、しかしそこへ己への愛しさがない混ぜになったような…なんとも扇情的な瞳があった。むぅ、困った。
「今回はどのくらいでお戻りに…?」
聞かれた声に、照れ隠しのようになにやら早口で答えてしまった気がする。
不思議そうな瞳でこちらを見上げる彼女に、あぁ、不安にさせていたのかと気づく。
すまないと正直に謝ると、彼女の目に安堵の色が浮かんだ。
安心させたいと軽く口付けると、ふふと小さく笑った。
おかしなことでも言ったかと問えば、
「いいえ」
と、俺の首に千聡の手が回る。
引き寄せられるように、先ほどより深く口づけた。
寝起きだからか、いつもより少し熱く感じる彼女の体温を己に刻み込むように。
あぁ、愛おしい。この熱が愛おしくてたまらない。
ゆっくりと口を離せば、熱っぽく潤んだ瞳と視線がかちあった。
…離れがたい…
そう思った時、彼女の顔がさっと朱に染まった。どうやら口に出ていたらしい。
今度は先ほどより強く抱き寄せられる。
「杏寿郎さん……」
不意に名を呼ばれ心臓がドクリと跳ねる。
鍛え上げたはずの全集中の呼吸が、一人の愛しい女性の言葉でこんなに容易く揺らぎそうになるとは。柱として不甲斐なし。
「ご武運を」
ただ一言、祈るように囁かれた言葉。
きっと千聡のことだから、口に出さない多くの言葉があるのだろう。
まただ、とあの日と同じ顔で笑う彼女の、華奢な背に腕を回す。己の無骨な手が彼女を壊してしまわぬように、しかし少し苦しいかもしれないくらいの、しっかり抱きしめられていると感じられるであろう強さで。
頬に彼女の柔らかな髪が触れる。彼女からはいつも少し消毒液と薬草の匂いがする。
いつしか安心するようになったその匂いを一度深く身体に入れ、目を開ける。
「うむ!」