第1章 日輪を繋ぐもの
「…よもや…そんな顔をしないでくれ。」
私はどんな顔をしていたのだろう。
「今回は、どのくらいでお戻りに…?」
「…あぁ、長くても1週間ほどだろう。ある列車で、短期間で多くの行方不明者がでている。送り込んだ隊士も次々消息を絶ってな。俺が行くことになった。」
詳細に教えてくれたことに少し驚いていると、彼は照れ臭そうに笑った。
「…すまない、不安にさせるかと思い今まで任務についてあまり言ってこなかったのだが…
黙って出て行きいつ帰ってくるかもわからない夫など、愛想を尽かされてしまうな!」
少し困ったような顔で私を撫で、髪と口の端に触れるだけの柔らかな口づけをくれる。
「ふふ、」
…あぁ、安心する。この人が好きだ。
私を見つめる二つの太陽のような瞳や、それを切なく細めて笑う顔、優しく激しく触れてくる硬く温かい手も、私を包むお日さまの匂いも。
「む。何か、おかしなことでも言っただろうか!」
「いいえ」
優しく降る口づけにたまらず彼の首へ手を伸ばすと、彼の手が後頭部に差し入れられ今度は少し深い口づけをくれる。
「ん……ぁ…」
「っ…」
愛している、と触れる全てから伝わるように。愛おしくてたまらないと、お互いの存在を確かめるように。
やがて名残惜しそうに熱が離れていく。
少しの、しかし計り知れない熱を宿した瞳がまっすぐに私を見つめていた。
「…離れがたい。」
いつもの溌剌としすぎているほどの彼とは程遠い、私だけが知っている彼。
大真面目にそんなことを言われれば忽ち顔が熱を持つ。
顔を見られたくなくて、彼の頭を抱き寄せた。
「杏寿郎さん……」
私もです。
行かないで。
言えない言葉の代わりに。
「ご武運を」
祈るように耳元で囁くと、壊れ物でも触るかのように私の背に回される大きな腕が、それでも確かに温かな鼓動を伝えてくれる。
「うむ!」
しばらくそうして抱き合っていたが、私の首元に顔を埋めていた彼は一つ大きく呼吸をすると、すっと体を離した。
炎柱の顔で、振り返らずに部屋を出ていった。
「…ご武運を。」
もう一度つぶやいた言葉は、誰に聞こえることもなく消えた。