第7章 ❇︎生存if❇︎ がんばれ父上!
柔らかな光を通す障子が影を落とす畳に、布団を並べる。
いや正確には並べた、のだが…当然のように杏寿郎さんは自分の布団をめくりこっちを見ている。
「…(来ないのか?)」
「…(お布団もうひとつ敷いたのに)」
「…(…来ないのか?)」
しばらく黙って目を合わせていたが、先に逸らしたのは私の方だった。
獅子のようにも子犬のように見えるその瞳には、もう何敗しただろう。
広げられた腕の中へもぐりこむと、たちまちあらゆる感覚が杏寿郎さんでいっぱいになった。
「子供たちと、ちゃんと話をせねばな。」
「ええ。…大丈夫です。私たちの子ですもの。」
向かい合う彼のうなじに手を伸ばせば、瞳が柔らかく伏せられる。
「こんな風に過ごすのは久しぶりですね」
「そうだな」
「……………」
「…俺もだ」
「何も言っていませんよ」
「わからないと思ったか?」
「そんな言い方、ずるいです」
「…昨夜は、」
「え?」
「…少し羨ましかったのだ。千聡に添い寝をされる杏火と楓寿郎が。
父親として実に不甲斐ないが、やはり君に触れていると安心する」
「まぁ」
「子供でもあるまいに、女性の腕に抱かれていたいなどと思う日が来るとはな」
「女性なら誰でもよいので?」
咎めるように額を小突かれた。
「ごめんなさい、嬉しくて。」
くせのある髪をくしゃりと指で梳くと、
今度は満足げに重たい腕が背に回る。
「母上を独り占めなど、子供たちに見つかったら今度こそ嫌われてしまうかもしれん」
「ふふ、じゃあやめておきますか?」
「……いや、もう少しだけ…」
甘えるように私の手の甲を包んで指を絡め、胸元に顔を埋める愛しい人。
大きな背に手を当てそっと撫でていると、ふっと身体が解け、ゆったりと深い呼吸が聞こえてきた。
穏やかな光が、いつも私に安心をくれる。