第7章 ❇︎生存if❇︎ がんばれ父上!
夕餉の前、杏寿郎さんは二人を自室へ呼んだ
二人は緊張したように部屋の前で足を止める
「大丈夫よ。
…杏寿郎さん、開けますね」
襖を開け、そっと二人の背中を押す
「二人とも、そこでいい、聞きなさい」
「杏火、今も俺が怖いか?」
ふるふると、首を横に振る
「楓寿郎はどうだ?」
「…わ、わかりません…」
「お前たちのような感じる力は、皆にあるものではない。
そしてそれは人の知らない部分が見えたり、時に痛みを伴ったり、お前たちを苦しめることがあるかもしれない。
だが二人には、その力で人に寄り添うことのできる人間になってほしいと思っている。」
「今はわからなくてもいい。
まっすぐで心優しいお前たちを、父は信じている。」
楓寿郎は杏寿郎さんのもとへ駆け寄ると、恐る恐る肩のあたりに触れ、それからぎゅ、と抱きついた
杏火は瞳に涙を溜めたまま動かない
「…父さまは、ほんとうに父さま?」
「ああ。」
「ずっと、ずっと?」
「ずっと、ずっとだ。
…おいで」
杏寿郎さんがもう片方の腕を広げる
「不安にさせたな。」
二人をぎゅうっと抱きしめた
「ちちうえぇ…」
「楓寿郎、痛い思いをさせてすまなかった。これから任務後には、気を鎮めてからお前に触れるよう気をつける。」
「ごめんなさい…ごめんなさい…!」
「いいんだ、杏火。
お前が怖いと思った俺も、今の俺も、全て本当の姿だ。
ただひとつだけ、俺はいつでもお前たちを愛している。それだけは忘れないでくれ。」
我が子を抱きしめる優しい目と、小さな背中越しに目が合った
…幸せそうな顔をして。
さあ、今日の夕餉はさつまいもご飯ですよ。
【がんばれ父上! 終】