第7章 ❇︎生存if❇︎ がんばれ父上!
昼餉を済ませると、杏寿郎さんは非番にもかかわらず片付けなければならない書類があるとかで早々に自室に戻り、私は杏火と楓寿郎と昼餉の片付けをしていた。
「じゃあ楓寿郎はこのお椀を洗ってくれる?
杏火は洗い終わったものから拭いて、棚に戻してね。」
「「はーい」」
せっせと洗い拭く子供達に、努めてさりげない口調で問いかける
「ねえ二人とも。最近杏寿郎さんのことを避けているのはどうして?」
「えっ…」
「…」
それぞれの手を止め、ちらりと顔を見合わせる二人
「何か理由があるのでしょう?」
「だって…」
杏火が小さな声でつぶやく
「父さま、まっくろで、ごおごおしてて、こわいの」
「真っ黒?…確かにお仕事帰りは汚れていたりするし、いつも声は大きいけれど、怖いことはないんじゃないかしら」
「ちがうの!母さまにはみえないのですか??
父さまのまわりにくろくてあかいおっきい火があって。今まではなんともなかったのに、急に、知らない人みたいで、それで…」
「…急に、杏寿郎さんの周りに黒や赤の火が見えるようになったの?」
思い出してしまったのか、泣きそうな顔で杏火が頷く
「楓寿郎もそうなの?撫でられたとき、自分も燃えてしまうと思った?」
「…杏火みたいに、火はみえてない、けど…」
「うん」
「たたかれたと、思って…ばちって、熱くてびりびりってして…」
「あの時杏寿郎さんは叩いてなんかいないわ。
触られたとき、そんなに痛かったの?これは?」
ぽん、とあの時の杏寿郎さんのように楓寿郎の頭に手を乗せるが、きょとんとしている
「痛くないのね?」
「はい…ふわふわして、あったかいです」
「そう…杏火、私の周りにも火は見えるの?」
杏火は小さく横に首を振る
「そう…話してくれてありがとう。
さぁ、もうちょっとだから片付けてしまいましょう。お昼寝の時間ですよ」