第7章 ❇︎生存if❇︎ がんばれ父上!
ーー次の日ーー
「ただいま戻った!!」
「おかえりなさい杏寿郎さん」
「おかえりなさい、ちちうえ!」
「…おかえりなさい」
楓寿郎に手を引かれていた杏火は、それだけ言うとあっという間に屋敷の奥へ駆けて行ってしまった
「あ、きょうか!」
「あらあら」
「…楓寿郎!昨夜も良い子にしていたか?」
「はい、ちちうえ!」
「うむ!偉いぞ!」
ぽん、と大きな手が頭に乗った時、楓寿郎は急に飛び退き、これまた奥へ駆けて行ってしまった
「あらあらあら」
ちらと杏寿郎さんの様子を伺うと、
「………」
一言で言うと…そう、しょんぼりしている!
「…千聡」
「はい」
「俺は、におうか?」
「…はい?」
「二人とも、俺が触れたり近づくと逃げてしまうのでな…よもやそれほど汚れているのかと…」
「何を言ってるんですか。
ほら、羽織をこちらへ。お湯の支度ができています」
「!!やはり俺は臭って…!!!」
「だから違いますって!
お風呂の支度は今までもしていましたでしょう!!」
「しかしだな…!」
ぎゃーぎゃーと続ける杏寿郎さんの汚れ一つない羽織の留め具を半ば強引に外し
ぎゅうっと抱きしめて広い胸に顔を寄せる
「っ千聡?」
「…杏寿郎さんからはいつも、お日様の匂いがします。とっても安心する匂い。
私は大好きですから。」
「…それは……」
続かない言葉に顔をあげると、背けた顔が真っ赤に染まっているのがわかった。
「杏寿郎さん?」
結婚して数年経つのに、私の言葉一つでこんなに動揺する彼が可愛くて、思わず笑みが溢れてしまうのは秘密。
途端、苦しいほどに抱きしめ返された。
「き、杏寿郎さん、くるし…」
降参するように背中を叩くと、少し力が弱められる
「…すごい殺し文句だ」
耳に響く早い鼓動はどちらのものか。
「…今日も無事に帰ってきてくれて、ありがとうございます」
「うむ!二人のことは気がかりだが…
よもや千聡がこんなに可愛い言葉をくれるとは、こんな日も悪くないかもしれん」
なんだか急に恥ずかしくなってしまい、羽織を手にくると踵を返す。
「お湯、冷める前に入ってくださいね!」
きっと今、私の顔も同じ色に染まっている。