第1章 日輪を繋ぐもの
お付き合いをしてみてわかった。彼は意外とわかりやすい。
初めは何を考えているかわからないと思ったりもしたけれど、思っていることが素直に顔に表れすぎる。特に眉。
しかもあの大きな声で『うむ!実に愛いな!!』なんて言うものだから…
『あの鍛錬一筋だった炎柱に、いい人ができたらしい』とあっという間に蝶屋敷中に広まってしまった。
…と、いうことは、当然柱の皆さんにも筒抜けである。
頻繁に怪我をしてはしのぶさんに引き摺られるように訪れる風柱の不死川さんや、見舞いに託けてからかいに来る音柱の宇随さんらの『へぇ…こいつが』という恥ずかしい視線に耐えねばならなかった。
春が過ぎ夏が終わる頃、私たちは結婚した。
義父となった槙寿郎さんには「どうでもいい」と言われてしまったけれど、千寿郎くんに「あね、うえ…?」と緊張気味に言われた時は、とても面映かった。
婚姻を結んでから、何故か彼は仕事のことをあまり話さなくなった。
…愛されている、とは思う。
柱としての多忙な仕事の合間、任務先から何かと鴉を飛ばして文をくれたり、非番が合えば約束を取り付けて町に出かけたり。
たまの休みくらい休んでほしいと何度も言ったけれど、
「うむ!しかしこうして千聡の笑顔を見るのが一番の休息なのでな!!!!」
と聞き入れてくれなくて。
忙殺される日々の中で、杏寿郎さんは本当に太陽のようだった。
彼といる時だけは、全てを忘れて笑っている自分がいて…それに気がついた時は、なんとも不思議な気持ちになったものだ。
かちゃり、と日輪刀のなる音に現実に引き戻される。
出立の見送りくらい立たねばと思うのに、生来の朝の弱さと気温が低いためか、どうにも動けなかった。特に最近は杏寿郎さんの温もりに慣れてしまったせいもあるかもしれない。
彼はぴっちりと隊服を着込み、最後に炎を纏う。
何度その炎を見送ってきただろう。
何度見送るのだろう、何度…。
背負う「滅」の文字の下には、大小様々な傷痕が刻まれていることを知っている。私の知らない彼の時間がそこにある。
初めて熱を重ねた夜、私に覆い被さる彼の体の至る所に残るその痕を指でそっとなぞれば、こそばゆいなと苦笑していたっけ。
いいようのない感情に包まれていると、身支度を終えた彼が不意に振り返った。