第1章 日輪を繋ぐもの
握りしめられた震える大きな拳を、そっと開かせる。豆の潰れた、硬い剣士の手だった
「…」
「鬼殺隊の柱ともあろう方が、そんなお顔をなさらないでください。
…怖くないといえば、嘘になります。一介の医師である私ですら。戦いで傷ついた方をこうして見送る度に、己の不甲斐なさに打ちのめされます。
ですがそこで足を止めてしまっては、その手に残るはずのものまで見失ってしまう。私は…この手に、一雫でも残るものがあるなら守りたいのです。」
しまった、相手は柱なのに偉そうに喋りすぎてしまったと目を逸らせずにいると、重なった手に力が込められた。
「強いな、君は。刀を握らずとも、君の瞳や手は戦う者のそれだ。」
「私は…」
強くなんて、
「強さとは、肉体に対してのみ使う言葉ではないと俺は思っている。
…いつも、見ていた。傷ついた者を一人でも多く助けんとする君を。回復に向かう者を鼓舞し癒す声を。助けられなかった者へ流す涙や、その度に己の力不足だともがく瞳を。」
この人は…なんて、なんて優しい人なのだろう。心からこんなに血を流しながら、他者を思いやり、刀を握り続ける。
先ほど彼が私にくれた言葉は、私の目に映る彼そのものだというのに。
「炎柱、様」
「俺もまだまだ鍛錬が足らぬようだ!
君がもう誰も見送らずに済むよう、俺も俺の責務を全うする!
……共に歩み、見守ってくれないか。」
同じ瞳をもった二人の、始まりの日だった。