第1章 日輪を繋ぐもの
【千聡side】
まだ幼さの残る顔立ちと、それにそぐわない傷だらけの身体。全身に巻かれた包帯が痛々しかった。
竈門炭治郎と名乗った、杏寿郎さんの最期を知っているらしい少年は、一つ大きく息を吸うと言葉を紡いだ。
「『千聡には、感謝してもしきれない。
そして何よりも、君たちが笑顔でいてくれることを願う。』と…
っ…それから…
『俺はいつでも共に在る。どうかゆっくり歩いてきてくれ。愛している。』と…」
…あぁ、あなたは本当に。
これではあの日と同じじゃない。
自分は血を流しながら、最後まで人の心配なんて。
もう手当て、できないではないですか。
『千聡さんの笑顔が、自分の帰る場所なんだと』
『ゆっくりでいい、受け止めてやれ』
『そんな最高にド派手な男だ』
『大切なものを守る、強い手よ』
『千聡の笑顔を見るのが一番の休息なのでな!!!!』
みんなのくれた沢山の言葉と、彼の覚悟の本当の意味。
全てが、私の一番深い心の底に落ちてくる。
重い身体を起こし、赤みがかった髪をそっと抱き寄せた。
「…ありがとう、炭治郎くん。」
「…!!千聡さんからは、煉獄さんの匂いがしますね。」
「匂い?」
「あっいえあの!変な意味ではなくて!
俺は生まれつき少し鼻が良くて。
…ご夫婦だから近い匂いがするのかなって思っていたけど…煉獄さんの言った『君たち』の理由も、やっとわかりました。
…お腹に、お子さんがいるんですね」
まさか匂いでこんなことがわかる子がいるなんて。
少し焦ったように飛びのいた炭治郎くんは、懐紙に包まれた小さな何かを差し出した。
「これは…?」
「煉獄さんから預かったものです。
合流した列車の中で、いや…とかうむ!とか独り言を言いながらこの紙にずっと何かを書いていて。
…その時の煉獄さん、すっごく幸せそうな匂いがしていました。」
懐紙をそっと開くと、それは私が杏寿郎さんに子供のことを知らせた手紙だった。