第1章 日輪を繋ぐもの
【炭治郎side】
「…おれは、竈門炭治郎といいます。
煉獄さんと、無限列車の任務に同行していました」
寝台の上の女性はゆらりと、こちらに視線を向けた。
「千聡さんに、煉獄さんの言葉を、伝えに来ました。」
「杏寿郎、さんの…?」
泣き腫らし頼りなげだった瞳が見開かれる
「はい。」
寝台横の小さな椅子に腰掛け、すぅっと一つ息を吸った。
「『千聡には、感謝してもしきれない。
そして何よりも、君たちが笑顔でいてくれることを願う。』と…
っ…それから…
『俺はいつでも共に在る。どうかゆっくり歩いてきてくれ。愛している。』と…」
あんなに泣いたはずなのに、目の前が歪んだ。
泣くな馬鹿。千聡さんの方が辛いに決まっている。
それでも悔しくて悔しくて、顔が上げられなかった。
「………」
「!千聡さん…?」
静かに泣いていた。
やつれた顔に穏やかな笑みを浮かべて。
「少し、こちらへ来てくれない…?」
ゆっくりと体を起こすと、ことのほかしっかりと腕を広げ、俺の頭を抱き寄せた。
その瞬間、何故か、母のことを思い出した。
「…ありがとう、炭治郎くん。」
「…!!千聡さんからは、煉獄さんの匂いがしますね。」
「匂い?」
「あっいえあの!変な意味ではなくて!
俺は生まれつき少し鼻が良くて。
…ご夫婦だから近い匂いがするのかなって思っていたけど…煉獄さんの言った『君たち』の理由も、やっとわかりました。
…お腹に、お子さんがいるんですね。」
「…えぇ。そんなことまでわかってしまうのね。私から…彼の匂いがするの?」
「はい。煉獄さんの匂いもしますし、誰かを大切に思っている、絆の匂いもします。それも、煉獄さんと同じです。
…これを。」
「これは…?」
「煉獄さんから預かったものです。
合流した列車の中で、いや…とかうむ!とか独り言を言いながらこの紙にずっと何かを書いていて。
…その時の煉獄さん、すっごく幸せそうな匂いがしていました。」