第1章 日輪を繋ぐもの
「…こいつの覚悟は…惚れた女のために生きて帰るなんて、そんな地味なモンじゃなかったはずだ。
だがそれは、名誉なんてくだらねぇモンのために死ぬって事でもねぇ。
…わかるか?
何よりも大切に思うお前らが、鬼なんかに怯えることなくシワシワのジジイやババアになるまで笑って生きていける世界を掴む覚悟だ。
そのために、何年も何年も、柱になってからも、地味な鍛錬を毎日重ねてた。
俺の知ってる煉獄杏寿郎は、そんな最高にド派手な男だ」
「うっ…あぁ…っ」
「……手荒な真似ェして、悪かった。
けどお前ならわかんだろォ…
ゆっくりでいい、受け止めてやれ」
「あぁ…っあぁぁぁぁぁぁぁぁ
杏寿郎さん、杏寿郎さん、杏寿郎さん」
「…煉獄さんがよく言っていました。
千聡さんの笑顔が、自分の帰る場所なんだと。何物にも代えがたい、宝物だと。」
額、頬、肩、腕…
ゆっくりと拭った身体は、ボロボロだった。
膨張した血管や断裂した筋肉、硬化した腱。
一体どれだけの負荷をかけたのか…限界を超えて呼吸を使ったことが、手に取るように分かった。
左目は潰れ、掛けられた布越しにも分かる胸部の陥没。
しかし同時に、目を背けたくなるこれらはまぎれもなく
彼の覚悟と、生きようとした証だった。
大好きだった。太陽のような笑顔も、硬く温かい手も、私を包む逞しい胸もお日さまの匂いも。
「………おかえりなさい。杏寿郎さん」