第9章 温
Jun
いや、これは、常々思ってることだけど。
まったくもって不思議としかいいようがない。
マジで世界の七不思議だと思う。
あれだけの頭脳と、あれだけの仕事の処理能力があれば……本来ならありえないと思うんだけどなぁ。
ぷくくっと笑ってしまい、慌てて片手で口元を覆った。
俺の視線の先には、テレビ画面の向こうで、久々に奮闘している恋人。
肉を焼いてるフライパンと、めちゃめちゃソーシャルディスタンスとってる。
どうやら油はねが怖いらしい。
その怯えた表情が可愛すぎるぞ。
少々油がとんでも、ちょっと熱いくらいでたいしたことないのにさ。
腰がひけた状態で料理を進める彼は、完全に新婚の新妻状態のそれだ。
段取りよく、なんて、普段の仕事なら完璧にこなすのに、料理になると、とたんにポンコツになるのはなんでなんだろう。
「あーあー」
思わずつっこむ声が出て、今度は両手で口元を覆った。
スピード勝負だっていうのに、タレを混ぜるタイミングが遅い。
ほらほら早くしなくちゃ!
あまりにも微笑ましくて、笑いをこらえるのに必死な俺は、わざわざ咳払いをして誤魔化した。
フライパンを煽るときにでる火に、わーわー言ってるところなんて……もう、たまんない。
すぐ飛んでいって手を添えてあげたいよ。