第1章 光
SHO
ふと、浮上したぼんやりした意識のなか、隣にあるはずの温もりにすり寄ろうとして、それがないことに気づいた。
薄く目を開けると、ふかふかの羽布団に埋もれてるのは俺だけ。
……トイレか……?
だが、手を伸ばした先のシーツは冷たくて。
ここにいるはずの人物が、かなり前から起きてることを意味してる。
俺は、ゆっくりと起き上がり目をこすった。
「……潤……?」
眠る直前まで繋いでいた体は怠く、少し動かすだけで、甘い痛みが走る。
でも、なんとなく……彼の今いる場所が予想できるから。
俺は床に落ちてたカーディガンを拾い、ついでにベッドサイドの引き出しからブランケットを引っ張りだし、それを手にペタペタと寝室を出た。
リビングのカーテンが一ヶ所あいてる。
ベランダに続くその窓から、外をのぞくと、手すりに持たれて夜空を見つめる潤がみえた。
ホタルのように彼の口元で光る小さな火。
ゆらりとたちのぼる紫煙。
ライブ前は控えめにしてたみたいだけど、今日はずっと吸ってる気がするな……。
俺は、そっと潤に近寄り、持ってたブランケットを肩にかけてやる。
「……翔くん……」
「風邪ひくぞ」
びっくりした顔で俺を見る潤は……まるで幼子のような表情をしていた。
どうしていいかわからない、迷子になったようなその瞳に、胸が痛くなる。
「……寒いな」
震えながら呟くと、潤は吸ってたタバコを、灰皿におしつけて、黙って俺の肩を引き寄せた。
彼の吸うタバコの匂いが、より濃く感じられる。
冷たい体。
いつからここにいるのか。
俺は、そっとたずねた。
「……眠れないのか?」
「……ちょっとね」
俺たち全員が魂をこめて、作り上げたパフォーマンス。
だが、意図しない騒ぎがおこり、それから、潤はずっと胸を痛めてる。
責任感の強い彼は、俺たち以上にあちこち奔走して、厳しい言葉も、心ない声も、その体に全部受けてる。
俺なんかは、ある程度、その声を選別し、受け流すこともできるが、潤はよくも悪くも真っ直ぐで純粋な男だから、ダメージは倍のはずで。
「…………」
俺は、潤の背中に腕をまわし、ゆっくりとポンポンとあやすようにたたく。