第1章 くもり所により快晴
「キャー!!新開先輩ー!!頑張ってくださーい!!」
スタート前、ロードバイクに乗った多くの選手の中から大好きなあの人を見つけると気付いてほしくて懸命に大きな声を出して手を振る。
しかし、あの人は絶対に見てくれない。
それは私だけじゃなくて他の人にも…
以前、ファンクラブの先輩に聞いたことがある。新開先輩はファンクラブが嫌いだって。だから期待しちゃいけないって。
レース前で真剣になっている新開先輩を邪魔するわけにはいかないから、一度声を掛けたら後は見つめる。こっちを見ろって念を送る。
……成功したことなんてないけど。
でも毎回手を組んで私は祈る…
今日も、新開先輩が怪我なく力を出し切ってレースで勝てますようにと。
ふと、新開先輩に話し掛けている箱学ジャージの人が此方を見ていることに気付いて、隣に視線を移せばそれは東堂先輩で。
そのまま無視するのも悪いと思ってニコリとしてからまた新開先輩へと視線を戻す。
はあ…真剣な表情もカッコイイ…
普段の柔らかな雰囲気が自転車に乗るとガラッと変わる。箱根の直線鬼って呼ばれる程の闘志、今日も見れるかな。
なんて考えていれば一瞬…ほんの一瞬、新開先輩が私のことを見たような気がした。
待って、待って…今私のこと見たよね!?
なんか東堂先輩と話してるみたいだけど、そんなことどうでもいい!新開先輩が私の存在に気付いてくれたことが重要だ!
ファンクラブに入って1年ちょっと…
こんなに幸せな瞬間は今までなかった…!
これは夢かと頬を軽く抓ってみたけど普通に痛い。ああ、夢じゃないんだ……!
「新開先輩ー!!頑張ってー!!!」
私はありったけの力を込めて大きな声で声援を送ったけど……やっぱりこっちを向いてはくれなかった。