第3章 第一夜
ゆらり ゆうらり───。
深い霧で覆われた森に似つかわしくない朱色の帯締めが微風で僅かに揺れている。独特の淡い光を放つ紐を枝から解き、懐にそっと仕舞ったカヲルは考え混むように溜め息をついた。
この広大な森をさ迷って早数時間、再び同じ場所へ戻ってこようとは誰が予想しただろう。
「・・・・はて、どうしたものか」
ある程度歩けば森の切れ目に出られると思っていただけに、この状況は非常に不味い。
政府より支給された端末の位置図は依然として本丸正門前で点滅を止めており、一か八か お付きのこんのすけも呼んではみたものの、障気を纏った霧の影響か 呼び出されることはなかった。
「政人に連絡をいれてもいいが──」
"カヲル様お一人で行かれるおつもりですか!?彼処は何が起きるかわからない場所です、私も絶対に同行しますからね!"
(危険に合わせたくなくて、こっそりと出てきた手前、連絡を入れようものなら・・・・)
「あの様子だと説教は免れんなぁ・・・・それに──」
カヲルはチラリとドス黒く変色した藪の奥に視線をやった。長年の経験で培った目に狂いがなければ、あの向こうには刀剣が隠れている。
これまで幾度も命を狙う機会はあったはずだ。
それなのに、静かな敵意を感じるだけで攻撃を仕掛けてくる気配はない。
(此方の出方を伺っているのならば・・・)
「なぁ、そこに隠れてる君──小夜、左文字だよね?」
?「っ!!!」
まさか気付かれるとは思っていなかったのだろう。明らかに動揺しているのが手に取るように分かる。
「危害を加えるつもりはない。ちょっと道に迷ってしまったみたいでね、君たちの本丸に案内しては貰えないだろ・・・・って。あらら」
藪の向こうを覗くも既に人影はなく、作戦は見事失敗に終わったようだ。
(──突然話しかけた私も悪かったが、せめて本丸の手掛かりが欲しかった)
後悔の念が募り、自分のツメの甘さに叫びたくなる。しかし、そんな悠長に後悔している暇を神は与えてくれないらしい──。
先程の出来事を皮切りに辺りの霧に混じる障気が濃度を増してくる。本格的に息の根を止めにかかられ、袖元で口と鼻を覆っても肺に入る酸素が凍えるように冷たかった。
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微風(そよかぜ)