第3章 開/終/
最初はぶつぶつ悪態をついていた月瑠も、数分後には規則正しい寝息をたてていた。
寝れないなんて言っていた癖に早すぎるだろ、と五条は思わなくもなかったがその言葉は飲み込む。
月瑠が寝れないと言ったのは、封印から解放され自身の知らない世界を知っていく驚きだけが理由ではなかった。
勿論それも大きな原因の1つだが、もっと別の…
目が覚めればそこは自分が見た事もない世界。
まるで自分だけが急に取り残された様で。
知らない部屋。周りは名前も使い方も分からないもので溢れている。自身の記憶も朧げ。要するに、問題は不安や恐怖心の大きさである。
そんな中一人で安心して寝れるほど月瑠は勇敢でも天然でもなかった。
羞恥心はあった。しかし五条が寝るまで側にいてくれるという事は正直嫌ではなかった。飄々としているかと思えば意思が強く、横暴さだってある。五条悟という人間を月瑠だって何も知らない。
けれど、側にいると強く言われた。そこに嘘は感じず、不思議な安心感があった。だからこそ、これ程までに早く寝たのだろう。
五条は月瑠が寝ている事を確認するかのように側へ寄る。
「ん…」
寝返りをすれば、自身とよく似た白い髪。
透き通り、少し手繰るとサラサラとこぼれ落ちた。
本当は、彼女からもっと聞き出さなければいけないことがある。その上他者への反転術式による治療と呪力回復までできるのだ。上への対応を含め、この先の事をもっと考えなければいけない。
それでも、今だけは
「おやすみ、月瑠」
五条悟は静かに眠る少女を見守りながら
そっと部屋を後にした。