第7章 今日からお世話になります
「すみません、お誕生日にこんな話。忘れて下さい」
頭を深く下げて、私は歩き出す。
向かう先は寮とは反対方向だ。
和泉さんは、私の隣、車道側を歩いて下さった。
しばらく無言が続く。
私は、この無言の空気感が、なぜか好きだなと思った。
「あんまり遠くへ行くと、迷子になりませんか」
その言葉に、うーん、と少しだけ考えて。
「この歳で迷子は恥ずかしいですねー」
「だったら帰りましょう」
和泉さんが、私の右手を掴む。
どうしてだろう、お願いされているように感じた。
そう思ってしまったら、もう拒否する理由なんて何も無くなっていて。
「・・・・・・はい」
と、返事をして、元来た道を戻る事にした。
また無言が続くけれど、ふと。
「湯冷めしてませんか?」
私が尋ねる。
「そうですね、もし私が風邪を引いてしまったら、あなたが看病して下さいね。つきっきりで」
それは、粗相を許さないという意味だろうか。
和泉さんは、なんだか楽しげに笑っていらっしゃって。
きっと冗談なのだろうと、私は思った。
寮に着いて中に入ると、和泉さんは私から手を離した。
「もう、勝手に外に出ないで下さいね」
言い方は柔らかかったのに、どこか有無を言わさない雰囲気を感じる。
私は、はいともいいえとも、答えられなかった。
約束は出来ないけれど、努力はしようと思う。
リビングに入ると、二階堂さんが緑茶を飲みながらソファにもたれかかり、テレビを見ていた。
映っているのは何かの映画のようで。
派手な爆発シーンと役者のアクションが見えた。
(うわー、汗かきそう。こんな演技、数カ月では物にできひんやん。めっちゃ努力しはったんやろなぁ)
「ん? あ、おかえり。遅かったな」
二階堂さんがテレビを消しながら言う。
「すみません」
私が頭を下げると、隣に立っていた和泉さんが。
「全くです。大人なんですからあまり私達の手をわずらわせないで頂けますか」
「イチ、そういう言い方やめろ。とは言え、一華ちゃんの行動は褒められた物じゃない。そこは反省しなさい」
「はい、本当、すみません」
思わず小さくなってしまいながら言う私に、右から和泉さんの容赦ない視線が刺さって。
いや、ほんと、悪かったって思ってますよ。
・・・・・・でも、あの時は、ああするしか。
